子どもと大人   ・・・臨床医からのひと言


 

** 子どもと大人 **

 

 

子どもと大人の違いは何でしょうか?

 

ひと言で表現すると、成長とは、刻々と変化していることです。

 

このことを千年に一度と言われる自然災害であった東日本大震災の経験を参考にして考えてみましょう。

 

私たち日本に住む大人にとって、東日本大震災の被災者にとっては特に、3.11はつい昨日のことですが、その時乳呑み児だった赤ちゃんは、今はもう歩きまわっていて、呼びかけには反応するし、 「いやっ!」 っと意思表示さえします。その子どもにとって津波は、遠―い遠―い、大昔のことです。

 

3歳・・5歳・・10歳・・の子どもにとって大津波は、 「怖―いことがあった・・」、 「あぁ、そうだった・・」 という過去のことで、もはや、そうそう想い出すことはありません。成長の途上にある幼児にとって大切なのは、 “今(現在)” と “これからのちょっと先(あした)” のことです。  “今” と “ちょっと先” が、 「安全」 で 「安心」 であれば、 大満足です。

 

子どもが不満で不機嫌なのは、 “今” と “ちょっと先” に何らかの問題があるからです。

 

もしかして大震災を経験している子どもが、津波や原発の怖さを未だにいつまでも引きずっているとしたら、その子どもにとっての “今” と “ちょっと先” が 「安全」 で 「安心」 ではないのです。

 

大人たちは、そうした子どもについて、 「津波の怖さ・原発の怖さを今も引きずっている。それほど恐怖の体験だったのだから」 と考えがちですが、それは大人サイドの考えです。そうした大人よがりの一方的な解釈で納得してはいけません。

 

まずは、その子どもにとって、今現在が 「安全」 で 「安心」 なのかどうかをしっかりと見極めて検討して下さい。大津波の経験が問題なのではなくて、今現在にある問題がみえてきます。すると解決の方法も判ってきます。

 

子どもは感情をシンプルに表現します。泣く、笑う、怒る、むずがる、、、

成長するにつれて感情は言葉になっていきます。悲しい、さびしい、つらい、嬉しい、・・・。やがて、むなしい、孤独・・・などなど、大人言葉になっていきます。

 

子どもが感情を表現しない、あるいは感情表現が少ないときは、心配してください。その時は、子どもを遊びに誘って下さい。特に体を使った遊びがいい。

 

子どもは体で反応します (眠い、痛い、かゆい、元気がない、嘔吐、便秘、下痢、などなど、いろいろな体の症状・・・で。) 子どもたちは、 「不満」 「不機嫌」 のサインを、 「快食」 「快眠」 「快便」 の逆症状で表現します。

 

中でも子どもがぐっすり眠れないとしたら、それは気を付けていただきたいストレスの重要なサインですから、注意してあげてください。

 

何と言っても、子どもは反応が早いです。ですから、親や周りが子どもの変化に気づいて、不満や不機嫌の原因に気づいて、それらを改善できれば、子どもたちはすぐにもみるみる回復していきます。

 

子どもには、過去・現在・未来という時間の流れがわかりません。成長とともに時間の意味が分かり始めて、過去と未来がわかってきます。しかしそれは、昨日と明日の違いがわかる程度から始まりますが、1年後と千年後の差が実感を持ってわかるようになるには大人になるほどの成長を待たなければなりません。

 

やがて、昨日と明日の違いが分かる程度の年齢から少しずつ成長して未来の意味をつかみ始めると、災害の体験や恐怖の体験は、未来への不安につながっていきます。

 

大人は、千年に一度の災害だったとわかるから、失意の中からでも復興へ向けて歩んでいくことができますが、千年という時間単位を理解できない子どもには、明日にもまたあの恐怖の大津波がくるかもわからないという不安につながっていく可能性があります。

 

子どもたちには、 『今度のことで、今、社会全体で研究していて、みんなで住む町と未来を背負う子どもたちを守る方法を研究している』 としっかり伝えて、 「保護されている安心」 を子どもたちに伝えてください。

 

そして同時に、私たち大人にその責任があることを個々に自覚して社会をあげて子どもたちの将来を守って参りましょう。

 

 

2013年5月  院長 小林 和