はなちゃんのみそ汁 ・・・臨床医からのひと言


 

** はなちゃんのみそ汁 **

 

 安武信吾・千恵・はな著 文春文庫、文藝春秋、2014.


いのちのはかなさ、そして対極にある生きる強さが伝わってくる。

もがいてもあがいても、死のその時は刻々と確実に、まぎれもなく、やってくる。

その淵に立った命のはかなさと、取り巻く人智の無力さ。

幼いと見られている命が、生きようと動き始めるとき、なんと強いことか。

生かすのか、生かされるのか。

人は、未来に何かを残し、何かを伝えようとするとき、息づく。活きる。

どんな言葉が、どんな心が、どんな働きかけが、

身近な一人を活き活きとさせるのかが伝わってくる。


日々接している心病む青少年一人一人の心がはなちゃんにダブる。

実は彼らの中に、こんな強さが潜んでいる。

5歳の子に包丁を持たせるのをためらっている大人社会。

守っているのか、阻んでいるのか、

今、成長途上にある子どもたちと関わっている大人たちはみんな、

もう一度考えてみなければいけない。

子どもたちが成長する力を、助けているのか、阻んでいるのか。

今すぐに立ち止まって考えてみようと、叫び声を上げたくなった。

私たちに残されている時間は、そう多くはないと自覚したい。

未来を生きる子どもたちに、息づく未来を手渡したい。  

 


2014年9月 彼岸に  

院長 小林 和