人格障がいとは   ・・・臨床医からのひと言


 

** 人格障がいとは **

 

 

 最近、小説やテレビドラマ、そしてニュースを通して、ある人の「人格」や「性格」、そしてそれらを取り巻く環境や社会に目を向ける機会が多くなってきました。今回はこの「人格」についてお話ししましょう。

 

「人格」とは知能、感情、意志など、それぞれの側面を合わせ持った一人の人としての特性のことで、生まれたその瞬問から、さまざまな要因に影響をうけて形作られていきます。つまり、人が成長していくその時々でその人が関わった環境や人々、そしてその時々の社会的な背景が人格の形成に大変大きな影響をおよぼします。言い変えると、「人格」とは、その人が生きた環境や社会を色濃く映し出した「鏡」だとも言えます。

 

そのように考えてくると、社会の「鏡」である「人格」にゆがみや曇りが見られたとしたら、それを、もっぱら一人の人間の個人的な問題ととらえるのでは不十分で、その個人を取り囲む環境や人々、そして社会全体の問題を見直してみる視点も必要になってきます。

 

 最近よく耳にする「人格障がい」とは、感情や行動に著しく偏った面が特徴的にみられる障がいのことですが、多くの場合は、偏った性格の特性を問題にするというよりは、問題のある行動や社会的な不利益を強調しているようです。

では、「人格障がい」の問題性は何処にあるのでしょうか?

 

彼らは、自らの感情や欲望、それによる行動や対人関係がうまくコントロールできず、社会で生活することがきわめて苦痛だと自覚しています。時にはそれらの苦痛が増大して、抑うつ的、衝動的、爆発的となり、結果的に自傷行為や極端な場合には自殺などという、自らを傷つける自己破壊的行為に向かいますし、あるいは、それが反転して他者へ向かう破壊行為となってしまうことがあるのです。

 

彼らの多くは、その「人格」特性から、他人からの介入やサポートに対して強い抵抗感や嫌悪感を示すことが多いものです。関係づくりが困難なことも特徴の一つなので、悲しいことにこのような結果になります。そのために、専門家による理解と介入が必要になってきます。

 

精神科的「病気」のことを一般に「障がい」と呼んでいます。病気および障がい、全てに共通することですが、「早期発見・早期回復」は、「人格障がい」にも当てはまります。問題行動や社会的不利益へと発展する前に、まずは、障がいを理解し、できるだけ早期の介入やサポート、精神科的治療的関わりが望まれます。

 

そして何よりも、新たな「人格障がい」を作り出さない社会的環境作りを目指すことが大切でしょう。

 

 

2012年4月  院長 小林 和