クリニック設立以来、前に前に向かって歩んで来たら25年を経過していた。
当然のことだが、限りある人生である。患者の皆さん一人ひとりとの関係も限りある。
医師になって間もなくから関わってきて、今ではその人生の半分以上を共にして来た方々を含めた彼らとも、想いのほか増えた職員とも、いつかは別れの時がある。
突然に? ゆっくりと時が準備されるとしたら、幸運な場合であろう・・・。
準備を試みることにした。1ヶ月間の休暇をとって短期(研修ではなく)見拾留学することにした。
若さで向かう留学とはいく味も違う。もの珍しい異国の地を訪ねるにしても、患者さんたちの動向を含めた日常臨床のすべてを仕事仲間に託して出かけるのだから、
時間を、そうそう私的にのみ使用できるものではない。
言葉の壁があるから訪問先も限られる。
知人を通じた情報に頼って、まずはNYのWhite PlainsにあるPresbyterian Hospitalを訪ねた。
Manhattanからexpressで30分ほど離れた閑静な郊外の街、その中心部にある丘全体がそれであった。
丘の袂に瀟洒な門が大通りに面していて、ここをタクシーで丘を上り詰めるのだが、道々、レンガ造りのcottageが表情を変えて点在する。
これが病棟でもあり、研究所、外来棟、宿舎などなどでもある。
木々の緑と点在する赤と空の群青。
タクシーを降りるやカメラを取り出したら、芝生を手入れ中の職員にすぐに止められた。
そこを散策している患者さんたちらしい人々の肖像権を守る心遣いであろう、個人情報を重じる国民意識が徹底しているらしいのをまずは知った。
コーネル大学とコロンビア大学の付属病院を兼ねていて、著名な学者による定期的研究会も気軽に開催されていた。
もっとも、参加するには事前チェックがあってクローズドだが、いずれ近日には著書になって公開されるらしい内容がcottageの中の10数人も入れば満杯になる一室で次々と話された。
人を動かし人に益する知恵が、こんなところから世界に向けて発信されている。
一ヶ所の一時の訪問で全てを知ったとはいえない。
次いで、トラウマをテーマにして開催される地方会があるというので、参加を兼ねてAtlantaを訪ねながら、次の四半世紀に踏み出すクリニックのあり方を考えた。
2005年4月 院長 小林 和